民法533条 双務契約の当事者の一方は、相手方がその債務の履行(債務の履行に代わる損害賠償の債務の履行を含む。)を提供するまでは、自己の債務の履行を拒むことができる。ただし、相手方の債務が弁済期にないときは、この限りでない。
XがYに新車1台を300万円で売却する契約が締結されたとします。この場合、(契約で特別な合意がなければ)売主Xは、買主Yが代金300万円を提供するまで、新車1台の引渡しを拒むことができます(民法533条)。同様に、買主Yは、売主Xが新車1台を提供するまで、300万円の支払を拒むことができます。
このような、相手方が自分の債務の履行を提供するまでは、自分も自分の債務の履行を拒むことができるという主張(抗弁)のことを、同時履行の抗弁(権)といいます。
同時履行の抗弁とは、双務契約において、両者の債務が対価性を持ち、互いに結び付けられている(「牽連性」とよびます)点に着目し、自分だけが履行して相手は履行しないというズルい状態を避けるためにあります。また、自らの債務の履行の提供を一時的に拒絶することで、相手の履行を促すという機能も有しています。
※ 否認と抗弁について、請求原因事実・否認・抗弁を参照。
同時履行の抗弁は、
①相手方から履行を請求されたときに、同時履行の抗弁権を主張して履行を拒絶する、という使い方と
②相手方から履行遅滞を理由とする損害賠償請求や解除の意思表示がされたときに、債務者に同時履行の抗弁権があるため、履行をしないことが正当化される(その結果、損害賠償請求や解除が認められなくなる)という使い方
の2つの使い方があります。
①の場合は、債権者が相手方の同時履行の抗弁権を潰す必要はなく、単に契約成立の事実を主張・立証すれば足ります。同時履行の抗弁権は、債務者側において反論(抗弁)として主張・立証します。
②の場合は、債権者があらかじめ債務者の同時履行の抗弁権を潰しておく必要があり、そのため債権者が自己の履行の提供を主張・立証する必要があります。(詳しくはそのうち加筆します。)